自然と人が織りなす味の響きを重ねて
鳥海山の麓で紡ぐ独自のガストロノミー
「にかほガストロノミー」を牽引する渡邊シェフの、地域との深い結びつきを大切にしながら新たな食の可能性を追求する熱い魂。それと響き合う「ゆきの美人」のきれいななかに宿る芯の強さに触れるストーリーです。
雄大な鳥海山がゆったりと裾野を引く、秋田県にかほ市。平沢漁港近くにあるフレンチレストラン「Remède nikaho(レメデニカホ)」は地元食材の魅力を繊細に引きだし、丁寧に味を重ねるオリジナリティあふれる料理でその名を知られています。店名の「レメデ」には、自然の力で治し、癒すという意味が込められており、おいしさ、楽しさ、健やかさを生む食事を、自然豊かな秋田の恵みを使って提供したいというシェフ・渡邊健一さんの思いのもと運営されています。 鳥海山の伏流水で育った野菜、日本海で獲れた海産物、地元農家のハーブなど、みずみずしい素材を生かしながら、発酵食の文化豊かな秋田らしく麹や甘酒、酒粕なども巧みに用いて作られる渡邊シェフの料理を提供するフレンチレストラン「Remède nikaho」。元は保養施設だったという立派な庭を進むと、ソムリエールの村上清香さんが笑顔で迎えてくれます。










牛タンにしいたけのデュクセルとマスタード、ローストしたひろっことふくたちを添えて。ひろっこはあさつきの新芽、ふくたちはとう立ちさせた白菜のこと。ともに初春の秋田で出回る野菜



芯が通ってバランスがいい頼りがいのある日本酒
小林:今日もおいしく楽しませていただきました。ヒラメの料理は日本酒にもよく合う味わいだったけど、今日は取材だからゆきの美人に合わせて特別に作ってくれたっていうわけでもないよね?
渡邊シェフ:今日はゆきの美人を主役にコースを仕立てました。うちでは普段から日本酒もワインも国内外限らず提供していて、どの酒蔵を特別に贔屓にしているっていうことはないんですが(笑)。決まったペアリングではなく、そのときの料理や季節に応じて柔軟に合わせています。

ソムリエール・村上さん:ゆきの美人は、最近の日本酒らしい、きれいでさっぱりとした味わいが特徴ですが、それだけではなく、後味にかすかな苦味が加わることですっとキレるんですよね。この苦味が料理と調和して、食事をどんどん進めたくなるような感覚を与えてくれるという印象を持っています

小林:今日はソースも王道のフレンチというより、日本の食材を取り入れつつ、フレンチのテイストも感じられるバランスにしあがっている印象だったね
渡邊シェフ:ありがとうございます。先ほどソムリエールが言ったとおり、少し苦み、奥行きがあるゆきの美人の味わいには、同じフルーツを使った料理でも、ただフレッシュなものを合わせるのではなく、ローストして深みを出すなど、一手二手加えて合わせるのがいいのかなと思ってお作りしています。
僕自身、一人のゆきの美人ファンなので、飲み手としてもおいしいなと思っているのですが、料理の作り手としてお酒に向き合う時間のほうが長い。それでいうとゆきの美人の味は、偏らないというか、しっかりと芯が通ってバランスがいい印象を持っています
村上さん:一言でいうと、頼りがいがある日本酒です。

ときにソースに、ときにアクセントに
味の重なりを温かく包む酒
小林:渡邊さんの料理はいわゆる古典的なフレンチではなくて、細かい味を積み重ねる繊細なさが特徴ですよね。
渡邊シェフ:そうですね、まさに。“混ぜる”よりは“重ねる”料理なので、そういう繊細さとゆきの美人のバランス感覚には非常に相性のいいものを感じています。
小林:そういった組み合わせの妙が、今日の料理全体にも感じられるよね。繊細に重ねられた味の最後にワインや日本酒を重ねるっていうか。それで一つの料理が完成する。
渡邊シェフ:そうですね、ワインや日本酒がソースになったり、最後のアクセントになったりするように組み立てているんです。なかでも小林さんの酒は最後に料理を温かく包んでくれるんですよ。

後世に残るスタンダードを探る挑戦
小林:渡邊シェフの料理にはいつも実験的な要素も含まれていますよね。
渡邊シェフ:はい、Remède nikahoはおまかせコースのみで営業している理由の中に、個人的な動機がありまして。それは新しい組み合わせを探求するためなんです。そのなかから死ぬまでのあいだに将来スタンダードと呼べるようなひと皿を見つけたいという思いがあるんです。
小林:だからいつも新しいコース、皿に挑戦し続けているんですね。じゃあまだレメデのスペシャリテっていうのはないっていうこと?
渡邊シェフ:そうですね、スペシャリテは決めないという方針でやっています。
小林社長:じゃあ今日もうちらは実験台になったんだね(笑)

渡邊シェフ:そういうなかからいつか〈カツ丼〉とか〈ハヤシライス〉のような、後世に残るスタンダードを一つぐらい残したいという思いで、毎回新しい組み合わせに挑戦しているんです。
そういう意味でも、小林さんの日本酒はいわゆる古典的な日本酒ではなくてかといってフレッシュな若手が作るような新しいタイプでもない、芯が通っていて、でも古典的でもないし、すごくその新しさもあるんだけど、いわゆる流行でもないというところがさすがだなといつも思っています。

そのひと皿に、その一杯に表れるのは
渡邊シェフ:小林さんのお酒でマリアージュを考えるときは、いつもお酒を真ん中にして、いろいろな方向から合わせて行く感覚です。……ちょっと言葉では表現しにくいですけど。料理にお酒を寄り添わせるのではなく、お酒が真ん中にあるんです。
小林:そんなにボリュームあるかな? 強いかな、ウチの酒。
渡邊シェフ:味の強さじゃないんですよ。これは、もしかしたら人間性の部分じゃないかな。芯がブレないのはお酒だけじゃなくて、小林さんの人間性も表れているんだと思うんです。小林さんは流行は鼻でふんと笑うタイプですけど、気骨のある若者はすごく認めてくれる方だなと思っています。

小林:それでいったら渡邊シェフは、本当に毎回違うコースで楽しませてくれるけど、芯はブレてない。そこは共感しています。
渡邊シェフ:今でこそ仲良くしていただいていますが、小林さんは食通で、率直にものを言う方。最初はお客さんとしていらっしゃるのも本当にイヤでした(笑)
小林:あはは! そう!?
渡邊シェフ:でも初めてお会いしてから何年も小林さんはうちのレストランでも常連でいてくださるし、それだけでなく一緒に飲みに連れて行ってくださったり、イベントでコラボレーションしたりと食に関することでご一緒する機会も増えました。小林さんとは、話をするのがとにかく楽しくて。やっぱりお互い好きなんですよね、食に関することが。
小林:うん、おもしろいよね。
渡邊シェフ:シャンパンやワインもお詳しいし、本当に勉強になるんです。あとはストレートな意見を言ってくださるのもすごくありがたくて。お酒も料理も、最終的には人と人との繋がりや信頼の中で作られていく部分もありますからね。
ゆきの美人の酒は、その芯の強さのなかに優しさがあるんですよ。それは小林さんのお人柄そのものでもあると思います。
小林社長:よし、じゃあ今日は早く店を閉めて早く二軒目に行こうか!(笑)
渡邊シェフ:はい、すぐ準備します!

